VHS
2019/09/30
のどかで自由で美しい一日だった
4月。
「ずっと借りっぱなしの『ポッペアの戴冠』を返そうかと思って」
と大学の時の後輩から連絡がありました。
ですが、お互いの予定やら心の余裕を鑑みていたら、秋になってしまいました。
「そういえば確かに『ポッペアの戴冠』を貸した気がするけれども、おかしいな、ちゃんと家にDVDがあるぞ。僕は貸したのを忘れて改めて買ってしまったのかな?」
などと思っていたら、彼女が僕に返してくれたのは、驚きのVHSでした。
それは20年ほど前、僕が実家で録画して、一人暮らしの部屋にも持って来ていた、モンテヴェルディ作曲、アーノンクール指揮、ポネル演出監督のオペラ映像作品。
「僕はこれを棺桶に入れるつもり」
と僕は彼女に話していたらしくて、
「墓場まで持っていくとまで言っていたので、返さないわけにはいかない」
と彼女は10数年間も気になっていたらしいのです。
僕らは大学時代に通ったキャンパスの周りを散歩し、話を
し、喫茶店でコーヒーを飲みながら、話をし、散歩しながら、話をし、公園で和菓子を食べながら、話をしました。
話をしていると、僕も彼女も、あまり自分たちが変わったとも感じなかったけれども、確かにちょっと、見た目はくたびれたかも知れないな、と感じました。