詩を書いたことのない詩人
2017年2月20日
向かって左側の小さいおじさんが幼馴染
五年振りに幼稚園の頃からの幼馴染と再会した。
子供の頃、家が近所だったので、いつも遊んでいた。
高校生になってからは一緒に学校をサボったりしたし、浪人中もテレビゲームを延々とやったりした。
僕が大学に合格し、上京する頃には、彼の人生はもうすっかり道に迷っていた。
彼の母親は彼が高校受験の頃に病死し、それが決定的な引き金となったのか、もともと変わり者だった彼の父はおかしくなってしまって、その父親が山で死んだことは、僕が大学生の頃に僕の親から聞いた。
彼も思春期に母を亡くしたりして、生の謎を探求する気持が強かったのか、僕らは一緒に芸術に興味を持ち、また他にそうした話をする相手がいない孤独な人間同士、腐れ縁として思春期を一緒に過ごした。
彼はあの頃、詩人になりたいと言っていた。
けれども、彼は僕の知っている限り、一編の詩も書いたことがない。
彼は詩人になりたかったけれども、ついに詩を書く勇気を得ることが出来なかった。
僕は写真家だけれども、誰かから写真家として認定して貰った訳ではないし、だから僕は幼馴染がもし今、「自分は詩人だ」と言ったとしたら、それを完全に否定することは出来ないと思う。
彼がもし詩人だとしたなら、死ぬまでに、一編でも詩を書くことがあるのだろうか?
僕は、彼が彼という人間の人生をまるっと掛けて書くかも知れない、そのたった一編の詩を読んでみたい。
きっと内容はつまらないだろうと思うけれども。