鯉恋故意
2017年9月1日
僕はあまり釣れなかったけれども、彼女はモリモリ釣っていた
色々と揉めて、一番のお友達と、数ヶ月、離れ離れになっていた。
連絡の取りようもない状況が続いたけれど、少し前から、また彼女が連絡をくれるようになった。
今日は僕が余りに調子が悪いので、彼女が僕を市ヶ谷の釣り堀に誘ってくれた。
僕は久し振りに彼女に会った。
市ヶ谷の釣り堀は、中央線や総武線の電車内から暇そうな人々が糸を垂らしている様子が見える、多分、日本で一番人目につく一番知られた釣り堀だと思う。
忙しい人々こそ、満員電車の中から見えるあの釣り堀でぼんやりと糸を垂らすことを、一度は夢想するのじゃないだろうか?
だが、夢想するだけで、実際に糸を垂らすことをするのは、一体その中のどれだけの人数だろうか?
僕と彼女はついにその釣り堀に糸を垂らすのだ。
水の中には黒い鯉がヌルヌルと蠢いていて、僕は釣り針も怖いし、鯉が釣れてしまうと口から針を外すのも怖いし、だからあまり釣れないことを心の奥底で願いながら糸を垂らしていたのだけれど、お友達は本気で何匹も釣っていて、針を口の奥の方にまで飲み込んでしまった鯉に対しては、鯉の口の中に指をグリグリ突っ込んでいたりして、その頼りになる姿に僕の心は安心を覚えた。
「僕、〇〇ちゃんと結婚しようかなぁ」
と僕が言うと、
「それもいいかもね。私たち、一番気が合うような気もするのに、一回も付き合わなかったし、不思議だね」
とかそんな話をした。
釣り堀のあとは、原宿で鯉のヌルヌルした匂いをさせながらお洒落なパンケーキを食べた。